末梢動脈疾患: 心血管疾患: メルクマニュアル18版 日本語版
末梢動脈疾患(PAD)は,末梢血管疾患とも呼ばれ,虚血を引き起こす下肢のアテローム硬化である。軽度のPADは無症状であることも,間欠性跛行を引き起こすこともあり,重度のPADは皮膚萎縮,脱毛,チアノーゼ,虚血性潰瘍,壊疽を伴う安静時疼痛を引き起こすことがある。診断は病歴,身体診察,足関節上腕血圧比の測定により行う。軽度のPADの治療には,危険因子修正,運動,抗血小板薬,症状に対し必要に応じたシロスタゾールか恐らくはペントキシフィリンの投与などが含まれる。重度のPADには通常,血管形成術または外科的バイパス術が必要であり,肢切断術を要することもある。治療を行うと予後は一般に良好であるが,冠動脈または脳血管の疾患がしばしば併存するため,死亡率は比較的高い。
病因
米国の人口の約12%がPADに罹患し,男性のほうが罹患しやすい。危険因子はアテローム硬化の危険因子と同じで,高血圧,異脂肪血症(低比重リポ蛋白[LDL]コレステロール高値,高比重リポ蛋白[HDL]コレステロール低値),喫煙(受動喫煙を含む),糖尿病,アテローム硬化の家族歴である。肥満,男性,ホモシステイン高値も危険因子である。アテローム硬化は全身性疾患であり,PAD患者の50〜75%は臨床的に重大な冠動脈疾患(CAD)または脳血管疾患も有する。しかしながら,PADのために患者は狭心症を誘発するほどの労作をしないため,冠動脈疾患は無症状であることもある。
症状と徴候
典型的にはPADは,歩行時に起こり安静時に軽減する脚の痛み,疼き,痙攣,不快,疲労の感覚である間欠性跛行を引き起こす。跛行は通常はふくらはぎに起こるが,足,大腿,股関節,殿部,またはまれに腕にも起こりうる。跛行は,狭心症と同様の,運動誘発性の可逆的な虚血の症状である。PADが進行するにつれて症状なしに歩行できる距離は短くなり,重度のPADの患者は安静時に痛みを経験し,これは不可逆的な虚血を反映する。安静時疼痛は通常,遠位でより強く,脚の挙上により悪化し(しばしば夜間の痛みを引き起こす),脚が心臓より低いときに軽減する。痛みは灼熱様であることもあるが,この所見は非特異的である。PAD患者の約20%は無症状であり,ときにそれは患者が脚の虚血を誘発するほど活動的ではないためである� �一部の患者は非定型的な症状(例,非特異的な運動不耐性,股関節または他の関節の痛み)を有する。
軽度のPADはしばしば何も徴候を示さない。中等度から重度のPADは一般的に末梢(膝窩,後脛骨,足背)の脈の減弱または消失を引き起こし,これらの脈は,触知できないときはドプラ超音波検査でしばしば検出できる。
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足が心臓より下にあるときに暗赤色を呈することがある(下垂時の発赤と呼ばれる)。一部の患者では足の挙上が色の喪失を引き起こし,虚血による痛みを悪化させ,足を下ろしたとき,静脈の充満に時間がかかる(15秒超)。患者が痛みを和らげるために脚を不動でぶら下げた形にしない限り,通常は浮腫はみられない。慢性PAD患者は,薄く蒼白な(萎縮した)皮膚を呈し,体毛が薄くなるかまたは脱落することがある。脚遠位部および足が冷たく感じることがある。恐らく交感神経の過剰興奮のために,罹患した脚が過剰に発汗し,チアノーゼを呈することがある。
虚血が重症化すると,局所的な外傷後には特に,潰瘍がみられることもある(典型例ではつま先やかかと,ときには脚または足にみられる)。潰瘍は黒い壊死組織に囲まれる傾向がある(乾性壊疽)。通常は痛みを伴うが,糖尿病またはアルコール中毒による末梢神経障害を有する人はそれを感じないことがある。虚血性潰瘍(湿性壊疽)の感染が容易に起こり,進行の速い蜂巣炎を引き起こす。
動脈閉塞の位置は症状の部位に影響する。大動脈腸骨動脈のPADは殿部,大腿部,ふくらはぎの跛行;股関節痛;および男性では勃起機能不全を引き起こしうる(レリーシュ症候群)。大腿膝窩動脈のPADでは,跛行は典型例ではふくらはぎに起き,大腿動脈より下位の脈拍は弱いか触知不能である。より遠位の動脈のPADでは,大腿膝窩動脈の脈拍は触知できるが,足の脈拍は触知不能である。
診断
PADは臨床的に疑われるが,多くの患者は非定型的な症状を呈していたり,症状を呈するほど活動的でなかったりするために,十分に認識されない。脊椎管狭窄症も歩行中に脚の痛みを引き起こすが,痛みの軽減に安静だけでなく座位をとることが必要であり,末梢の脈拍が完全なままであることから鑑別できる。
診断は非侵襲的検査により確定される。最初に,両側の上肢および足関節の収縮期血圧を測定する;足関節の脈拍は触知が難しいので,足背動脈や後脛骨動脈の上にドプラプローブを置いてもよい。大動脈腸骨動脈のPADの単発例を大腿膝窩動脈のPADや下腿のPADと区別するうえで圧較差および容積脈波が役立つため,ドプラ超音波検査がしばしば用いられる。
足関節上腕血圧比(足関節と上腕の収縮期血圧の比)の低値(0.90以下)はPADを示唆し,軽度(0.71〜0.90),中等度(0.41〜0.70),重度(0.40以下)に分類できる。この指標は正常(0.91〜1.30)だがPADの疑いが依然として強い場合は,運動負荷試験後にこの指標の測定を行う。この指標の高値(1.30超)は,圧縮不可能な脚の血管(動脈壁の石灰化を伴うメンケベルク動脈硬化において起こるものなど)を示唆する。この指標が1.30を超えるがPADの疑いが依然として強い場合は,動脈の狭窄や閉塞がないかを確認するために追加の検査(例,ドプラ超音波検査,足指カフを用いた足親指の血圧測定)を行う。収縮期血圧が非糖尿病患者で55mmHg未満のとき,または糖尿病患者で70mmHg未満のとき,虚血性病変部は治癒しにくく,膝下切断の術創は,血圧 が70mmHg以上であれば通常は治癒する。
減量のクレンジング
血管造影は動脈の狭窄や閉塞の場所と広がりの詳細を示し,外科的治療や経皮経管血管形成術(PTA)を行うためには前もって必要である。血管造影は異常所見の機能的意義についての情報は得られないため,非侵襲的検査を代用するものではない。磁気共鳴血管造影およびCT血管造影は非侵襲的な検査であり,最終的には,造影剤を使用する血管造影に取って代わる可能性がある。
治療
全ての患者は,禁煙,および糖尿病,異脂肪血症,高血圧,高ホモシステイン血症のコントロールを含む,積極的な危険因子修正を必要とする。PAD が非常に重度でない限り,β遮断薬は安全である。
運動―週3〜4回,35〜50分間,運動―安静-運動のパターンでトレッドミルまたはトラックを歩く―は重要であるが,十分に認識されていない治療法である。これは,無症状で歩ける距離を伸ばし,生活の質を改善する。メカニズムには恐らく,側副血行路の増加,微小血管の拡張に伴う内皮機能の向上,血液粘性の低下,赤血球のろ過性の向上,虚血に誘発された炎症の減少,O2抽出の増大などがある。
患者には脚を心臓より下に保つように助言する。夜の疼痛軽減には,足への血流を改善するためにベッドの頭側を10〜15cm上げるとよい。
患者にはまた,寒冷および血管収縮を引き起こす薬物(例,多くの頭痛薬および感冒薬に含有されるプソイドエフェドリン,)を避けるように助言する。
予防的な足のケアは,糖尿病患者には特に不可欠である。これには,損傷や病変がないか足を毎日調べること;足病治療士による胼胝と鶏眼の治療;毎日,刺激性の少ない石鹸とぬるま湯で足を洗浄し,その後ゆっくりと完全に乾燥させること;熱傷,化学的損傷,機械的損傷,特によく合っていない履き物による損傷を避けることが含まれる。足の潰瘍の管理については圧迫性潰瘍: 潰瘍のケアも参照 。
抗血小板薬は症状をやや軽減し,歩行距離を向上させる;より重要なこととして,抗血小板薬はアテローム発生を修正し,急性冠動脈症候群および一過性脳虚血発作の予防に役立つ(冠動脈疾患: 薬物も参照 )。選択肢としては,アスピリン81mg,1日1回,アスピリン25mgとジピリダモール200mg,1日1回,クロピドグレル75mg,経口投与,1日1回,アスピリンとの併用または単独でのチクロピジン250mg,経口投与,1日2回などがある。典型的にはアスピリンが最初に単独で用いられ,その後,PADが進行する場合は他の薬物の追加または代替を行う。
"うつ病" "薬物" "強い"
跛行の軽減には,罹患部の血流を改善し組織の酸素化を促進することにより間欠性跛行を軽減するために,ペントキシフィリン400mg,経口投与,1日3回を食事とともに投与するか,シロスタゾール100mg,経口投与,1日2回を投与してもよい;しかしながら,これらの薬物は危険因子修正および運動の代替となるものではない。ペントキシフィリンの使用は,その有効性の証拠がまちまちであるため議論のあるところである。ペントキシフィリンの副作用はまれであり軽いため,2カ月以上の試験的投与は正当化される。シロスタゾールの最も一般的な副作用は頭痛と下痢である。シロスタゾールは,重度の心不全がある場合は禁忌である。
跛行を軽減する他の薬物についての研究が行われており,これにはl-アルギニン(内皮依存性血管拡張薬の前駆体),一酸化窒素,血管拡張性プロスタグランジン,血管新生増殖因子(例,血管内皮細胞増殖因子[VEGF],塩基性線維芽細胞増殖因子[bFGF])などがある。PADの遺伝子療法の研究も行われている。肢の重度の虚血を有する患者では,血管拡張性プロスタグランジンの長期の非経口投与が痛みを軽減し,潰瘍の治癒を容易にし,また,VEGFをコードするDNAの筋肉内への遺伝子導入は,側副血管の発達を促進する可能性がある。
経皮的介入
ステント留置を併うまたは伴わないPTAは,血管の閉塞を拡張させる非外科的な第一の手段である。ステントを留置するPTAは,バルーンによる圧迫のみの場合よりも良好に動脈の開存を維持し,再閉塞率が低い。ステントは流れの速い大型動脈(腸骨および腎臓)において最も効果があり,小動脈や閉塞が長い場合はそれほど有用ではない。
PTAの適応は外科手術の適応と同様で,日常の活動を妨げる間欠性跛行,安静時疼痛,および壊疽である。適応病変は,血流を制限する,腸骨動脈の短い狭窄(3cm未満)および浅大腿膝窩部の単発性または多発性の短い狭窄である。浅大腿動脈の完全閉塞(最長10〜12cm)でも拡張は成功しうるが,5cm以下の閉塞の場合のほうが結果は良好である。大腿膝窩動脈バイパスより近位の限局性の腸骨動脈狭窄にもPTAは有用である。
びまん性の疾患,閉塞部位の長いもの,偏心性の石灰化プラークにはPTAはそれほど有用ではない。そのような病変は特に糖尿病において一般的であり,しばしば小動脈を侵す。
PTAの合併症には,拡張させた部位における血栓症,末梢の塞栓,フラップによる閉塞を伴う内膜の解離,ヘパリンの使用に関連する合併症などがある。
適正な患者の選択(完全で十分な血管造影に基づく)が行われた場合,初期成功率は腸骨動脈で85〜95%,大腿とふくらはぎの動脈では50〜70%に達している。再発率は比較的高いが(3年以内に25〜35%),繰り返しPTAを行うと成功する場合がある。
手術
血管の大手術に安全に耐えることができ,重度の症状が非侵襲的治療に反応しない患者には,手術が適応となる。目的は症状を軽減し,潰瘍を治癒し,肢切断を回避することである。多くの患者は基礎疾患に冠動脈疾患を有しており,そのためにPADの外科手術中に急性冠動脈症候群を発症するリスクがあるため,患者は通常,手術前に心臓の評価を受ける。
血栓動脈内膜除去術(閉塞病変部の外科的除去)は,大動脈腸骨動脈,総大腿動脈,または深大腿動脈の病変部が限局的で短い場合に用いられる。
血行再建術(例,大腿膝窩動脈バイパスグラフト術)では,閉塞病変をバイパスするのに合成または天然(しばしば伏在静脈またはその他の静脈)の素材が使われる。血行再建術は肢切断を予防し,跛行を軽減するのに役立つ。
血管の大手術を受けることができない患者において,末梢の閉塞が虚血による激痛を引き起こしているとき,交感神経切除術が有効であることがある。化学的な交感神経ブロックは外科的な交感神経切除術と同程度に効果的であるので,後者はほとんど行われない。
肢切断は最後の手段として行う手術であり,コントロール不良の感染,持続性の安静時疼痛,進行性壊疽がある場合に適応となる。切断は,義足を最も有効に使用するために膝関節を残し,できるだけ末梢で行うべきである。
外部圧迫療法
末梢の血流を増加させるための外部からの下肢の空気圧迫は,重度のPADを有し,手術が適さない患者における救肢の選択肢である。理論的には,これは浮腫をコントロールし,動脈血流,静脈還流,組織の酸素化を改善するが,その利用を支持するデータは不足している。1週間に数回,1〜2時間,空気カフまたはストッキングを下腿に装着し,拡張期,収縮期,またはその両期の一部の間,リズミカルに膨らませる。
急性末梢動脈閉塞
血栓,塞栓,大動脈解離,または急性コンパートメント症候群により,末梢動脈に急性閉塞が起こることがある。
急性末梢動脈閉塞は,アテローム性プラークの破裂および血栓症,心臓または胸部もしくは腹部の大動脈から飛来した塞栓,大動脈解離,または急性コンパートメント症候群により起こる(骨折,脱臼,および捻挫: コンパートメント症候群を参照 )。
症状と徴候は突然起こる5つのP,すなわち,四肢の激痛(severe pain),極地感覚(polar sensation)(冷感),感覚異常(paresthesias)(または感覚消失),皮膚蒼白(pallor),無脈(pulselessness)である。閉塞は触知可能な最後の脈のすぐ末梢側の動脈分岐部(例,大腿動脈の脈が触知可能な場合は総大腿動脈分岐部,膝窩動脈の脈が触知可能な場合は膝窩動脈分岐部)に概ね限局されうる。重症例は運動機能の喪失を起こすことがある。6〜8時間後,触診時に筋肉の圧痛がみられることがある。
診断は臨床的である。閉塞の位置を確定し,側副血行路を確認し,治療の方針を決めるため,直ちに血管造影を行う必要がある。治療には,塞栓摘出術(カテーテルまたは手術による),血栓溶解療法,またはバイパス術を行う。
血栓溶解薬,特に局所カテーテルによる注入は,2週間未満の急性動脈閉塞に最も効果的である。組織プラスミノゲン活性化因子およびウロキナーゼが最も一般的に用いられる。閉塞部位までカテーテルを挿入し,患者の血栓のサイズや広がりに適した速度で血栓溶解薬を投与する。治療は通常,虚血の重症度および血栓溶解の徴候(症状の軽減および脈の回復またはドプラ超音波検査の示す血流の改善)に応じて4〜24時間継続する。急性動脈閉塞患者の約20〜30%が,最初の30日以内に肢切断術を必要とする。
最終改訂月 2005年11月
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