「優れた砂糖の効果を知って、食生活を豊かに!」|農畜産業振興機構
[2004年2月]
せんぽ東京高輪病院 管理栄養士 足立 香代子 柿崎 祥子 |
【砂糖の正しい知識と健康的な食生活のために】
砂糖は、重要なエネルギー源であり、心身ともに満足感を与えてくれるだけでなく、料理の味付け、嗜好品に使われており、私たちの食習慣を豊かにする重要な食材の一つです。ところが、何時のころからか「糖尿病の原因になるから」、「砂糖を摂ると太る」といった誤った情報が氾濫し、やみくもに砂糖を控える風潮になってきたようです。確かに、どのような食品でも摂り方を誤れば、健康に好影響を与えるはずはありません。砂糖も然りです。それゆえ、砂糖はもちろんのこと、砂糖を含めた糖質の正しい知識と上手な摂り方を知り、身も心も健康的な生活を送れるようにしたいものです。
【砂糖は体に必要なエネルギー源】
まずは体内に砂糖がどのように取り込まれていくかお話しましょう。 砂糖の成分はほとんどがショ糖というもので、このショ糖はグラニュー糖や上白糖など種類によって異なりますが、おおむね80%〜99.85%含まれています。(表1)
表1 砂糖の成分 ホールデンコールフィールドは、うつ病がありますか?
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ショ糖は体内に入ると腸の中で酵素の働きによって、ブドウ糖と果糖に分解された後、腸で吸収され、肝臓に送られます。ショ糖だけに限らず、ご飯などの穀物に多く含まれるでんぷんなどすべての糖分は、肝臓でブドウ糖に変えられて、血液中に放出されます。血液に溶け込んだブドウ糖は血液の流れにのって、体の隅々まで運ばれます。このとき、糖質をエネルギーとして利用するのに働くのが、すい臓から分泌されるインスリンというホルモンなのです。すなわち、でんぷんから分解され、もっとも小さくなったブドウ糖は、十分なインスリンにより、筋肉組織や脂肪、脳に取り込まれ、ようやく私たちが生きるために必要なエネルギーとして利用されます。必要な分だけ使ったのちに余ったブドウ糖は、大半が再び肝臓に戻り、� ��臓内や筋肉組織の中に"グリコーゲン"という物質に変えて貯蓄されます。貯蔵された"グリコーゲン"は、血液中のブドウ糖が足りなくなると、ブドウ糖に分解されてエネルギーに利用されますので、私達がなにかの事情で1食や2食食べない、あるいは運動で一気にエネルギーを使っても、生命が維持できるのは、この貯蔵と供給のシステムを備えているからです。
しかし、ブドウ糖が血液中に放出されたにもかかわらず、インスリンが正常に作用していない人は、ブドウ糖が血液中にとどまり、エネルギー源として利用できない状態が起こります。そうなると、血液中のブドウ糖濃度(これを血糖値といいます)が高い状態が続き、いわゆる糖尿病となるわけです。ですが、この糖尿病は、決して砂糖、すなわちショ糖を摂るから生じるわけではなく、遺伝やインスリン代謝の異常、食習慣では長期に渡る肥満やインスリンを疲れさせるような偏った食事習慣などで発生するのです。
【砂糖は糖尿病の原因?】
図1 年々増加する糖尿病(人口10万人当り) 厚生労働省「患者調査」より どのように私は私の理想的なwieghtを決定するために私のBMI値を使用しない |
糖尿病は名前に「糖」が使われているためか、甘いものの代表である砂糖が原因で発病する病気であると誤解なさっている方が未だに多くいらっしゃるようです。血糖値が上昇し、尿に糖が混じることからこのような病名になっていますが、さきほども申し上げましたように糖尿病は体内でエネルギー源となるブドウ糖がうまく利用されなくなる病気です。糖尿病の「糖」=「砂糖」では決してありません。
実際、わが国での砂糖の消費量は年々減少しているといわれています。このことからも砂糖が糖尿病の直接の原因になっていないことは、お分かりいただけるかと思います。
【日本人に多いII型糖尿病】
糖尿病のタイプには、I 型と II 型があります。血液中のブドウ糖は、すい臓から分泌されるインスリンというホルモンの働きによって体内の各細胞に栄養源として取り込まれますが、このインスリンが生まれつき少なくて発症するものを I 型糖尿病といいます。そのため II 型糖尿病の人は、インスリン注射によって血糖値をコントロールしなければ生きることができません。
一方、日本人に多い II 型糖尿病は、インスリンが分泌されるものの、その働きが悪いあるいは分泌量が少ないために血糖値のコントロールが悪くなるタイプです。このタイプは、肥満や遺伝などによりインスリンの働きが妨げられるために血糖値が高くなるので、食事療法や運動療法、薬物で治療できます。もちろん、よほど悪くなった場合は、インスリン注射が行われます。つまり、日本人の糖尿病患者の約95%は、この II 型糖尿病であるといわれています。
ヒトは食べ物を口にすると、血液中のブドウ糖濃度が上昇し、インスリンの分泌もはじまりますが、食べ過ぎや、早食いによりインスリンの分泌が間に合わなくなり、血糖値がなかなか下がらない状態になります。また、肥満があると、各細胞が大きくなるために、ブドウ糖の取り込みに多くのインスリンを必要とするため、結果的に血糖値の下がりが遅くなり、加えて遺伝などがある場合は糖尿病が発症しやすくなります。
図2 インシュリンの働き |
【"砂糖を食べたら肥満になる"の誤解】
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糖尿病の原因の一つである肥満は、消費エネルギーより摂取エネルギーが多くなり、消費されなかった分のエネルギーが脂肪として体内に蓄積されるために生じます。よく "水を飲んでも太るタイプなの!"と言われる方がいらっしゃる一方で、"痩せの大食い"と言われる人もいます。水を飲んだだけで太るなら、地球環境として食糧問題もなくなることでしょうが、そうはいきません。ですが、余り食べない人が痩せない、あるいは太ることは確かにあります。これは、エネルギーを産生する筋肉量が少ない、すなわち運動不足ですから、運動で筋肉量を増やし蓄えた体脂肪を減らすようにしませんと、ごくわずか食べただけでも太ることになります。当然、"水を飲んでも太るタイプ"と感じている人は、砂糖を摂る、摂らないといったことを考える前に、運動が必要なのです。その点、"痩せの大食い"は、観察しますと実にこまめに身体を動かしており、砂糖や菓子を食べても太らないわけです。ど� ��らが健康かといえば、誰が考えても筋肉量のある"痩せの大食いタイプ"は、好きなものを食べ、スタイルを保てるのですから幸せ感も多いでしょう。
つまり、肥満は、砂糖や甘いものを食べると太るのではないことは、十分理解できることです。糖尿病を予防するためには、食事の摂りすぎによるエネルギーの過剰を是正し、消費エネルギーを増やして肥満を予防することが大切になるのであって、砂糖を摂ったからといって、糖尿病になるわけではないのです。
【砂糖とでんぷん、血糖値への影響は変わらない】
当院の糖尿病の患者さんには、ずっと前から1日饅頭1個程度と調味料に利用する砂糖程度は気にせずに食事療法を行ってもらってきました。当然、お菓子が好きな人は、饅頭1個では収まらないこともありますが、万一多めに食べてしまったなら、夕食の穀物(主食)を減らして調整する方法でなんとか血糖値をコントロールしてきました。もちろん、穀物にはビタミン・ミネラル・食物繊維などが含まれるのに比べて、砂糖(上白糖)には糖質以外の栄養素がほとんどないので、血糖値はこれが毎日となると上昇しますが、たまに食べる程度は大きな変化がなかったのです。永年のこんな経験から"糖尿病=砂糖・菓子禁止"といった、よく行われる食事療法はしなかったのです。ですから糖尿病の患者さんは、とても幸せな表情で帰ら� ��、砂糖を上手に取り入れながら食事を楽しくコツを身に付け、食事療法を長続きさせられたと思うのです。これを裏付けたのが、米国糖尿病協会が示した指針でした。まさに永年、当院で行ってきた食事療法と同じで、"ショ糖は等カロリーのでんぷんに比べ血糖をより上昇させることはないので、糖尿病患者にショ糖やショ糖を含む食品を制限する必要はない"といったものでした。
しかし、余分に摂ることは栄養状態のアンバランスになりますが、1日50g程度なら問題が無いわけです。これはちょうど、和菓子1つ分程度と調味料に使う程度の量に相当します。すなわち、ショ糖とでんぷんは、血糖値への影響が変わらないので総量を制限する必要はあるが、区別してはいけないという提唱でした。このことは欧州も同じで、"糖尿病の患者さんに砂糖がいけないなどというあなたは栄養士ではない!"などといった栄養教育を行う側の理解不足を戒める提唱をしています。
【血糖値の上昇を抑える砂糖の摂り方とGI(グリセミック・インデックス)】
欧米で糖尿病の食事療法として利用されていて、近年日本でも、各方面で注目されているGI(グリセミック・インデックス)についてお話したいと思います。
GIとは、食品に含まれる糖質の量を同量としたとき、それを食べた後の血糖値の上昇を面積で表した数値のことで、GIが低いものほど、血糖値があがりにくいということになります。欧米では、ブドウ糖を摂取した際のGIを基準(=100)として各食品と比べていますが、我国の杉山らは、食品中の糖質をすべて50gに揃え、白米を基準(=100)として各食品を食べた場合のGI値を観察する研究を進めています。ちなみに、酢飯はGIが67、お汁粉は58となり、砂糖を組合わせた料理であっても、決して他の炭水化物に比べて血糖値を上げやすい食品であるとは言い切れないことがわかります。他にGIが低い食品をみると、納豆やあずき、海藻、麺のように食物繊維を多く含む食品や酢、油を一緒に摂った場合には、GIが低めになります。つまり、砂� ��は調味料として、また食後の甘いもの一口程度の使い方であればほとんど心配ないとも言えます。もちろん、その量は1日50g程度として、栄養バランスを崩さないためにも守りたいものです。
ただ、甘いものを食べ始めると止まらない人で、現在血糖コントロールを必要としている方や減量中の方は思い切ってお止めになった方がよい場合もあります。
【脳と心に重要な役割を担う砂糖】
脳はブドウ糖を唯一のエネルギー源とするにもかかわらず蓄積しておくことができません。また脳は寝ているときも常にブドウ糖を消費し続けていますから、ブドウ糖が足りなくなると、意識が朦朧としてくるなど、大変危険な状態になります。
砂糖だけでなく、ご飯、パン、麺といった炭水化物(糖質)に多く含まれるでんぷんも体内で分解されてブドウ糖に変わりますが、砂糖はでんぷんに比べてブドウ糖に分解されやすく、速やかにエネルギー源として取り込むことができる良さがあります。疲れたときやイライラした時に甘いものが欲しくなるのは、脳が早急にエネルギーを必要としている場合が多いので、理にかなっているのです。 そのほか、ブドウ糖には精神安定に関わる効果もあります。少量であっても甘いものをとるとなんとなく満足感や幸せな気分になりませんか?これは、精神を安定させる神経物質であるセロトニンという物質を多く作り出すのに一役買っているからです。セロトニンの材料となるのは、肉類や牛乳などに含まれているトリプトファンというアミノ酸。そのトリプトファンはインスリンが血液中に分泌されているときに、脳内に取り込みやすくなりますので、砂糖や炭水化物をきちんと摂る必要があるのです。
このようにブドウ糖には心身ともに満足させる効果がありますので、速やかにブドウ糖に変わる砂糖をうまく取り入れることで、効果をより発揮できるといえるでしょう。
【調味料としての砂糖の特性】
ところで、砂糖はその甘みを生かし調味料として使用されることが多いですが、食品の酸化や腐敗を防いでくれる特性も持っています。砂糖には以下のような効果があるのです。
【糖質を上手に取り入れた食事でQOLの向上を】
これまでの話で肥満や糖尿病の原因が決して砂糖だけではないこと、脳の健康や心の充足には必要な食品であることがご理解いただけたかと思います。ただ、やみくもに砂糖や甘いものを制限してしまっては楽しいはずの食事が無味なものに感じるでしょう。
肥満や糖尿病の患者さんは特に、好きなものをどれだけ食べてもよいということにはなりませんが、正しい知識を持って食べることができるなら、さらなる生活の質の向上をめざすことは可能です。
たとえば、甘いものを食べるときには量だけでなく質や摂る時間を工夫します。ケーキ1個を食べると、摂取エネルギーが多くなるようなら、その半量を食べるより、いっそ和菓子ひとつ食べるほうが、満足感を得ることができます。和菓子は洋菓子に比べてエネルギーが低く、とくに小豆を使った菓子は脂肪が少なく食物繊維が多く含まれています。食物繊維と砂糖を一緒にとることで、血糖値の上昇をゆるやかにすることができます。
砂糖は私たちの食習慣を豊かにする重要な役割があります。誤った情報に振り回されることなく、おいしく食事を食べて健康管理をしたいものです。
参考文献:
「血糖値を下げる食事」 足立香代子、西東社
「おいしく食べて治す糖尿病」 足立香代子・赤堀博美
「栄養指導に活きる砂糖の正しい知識」 独立行政法人農畜産業振興機構
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